東南アジアで勢いを増すファスト 

ファッションの新参ブランドPomelo

オンライン販売ブランドがZARAに続くべく実店舗でもプレゼンスを築いています。

2019 年 08 月 , 特集:

バンコク/シンガポール-バンコク在住のManeerat Tepravipard氏は、最近クローゼット内の衣服を入れ替えたいと思ったとき、オンラインにアクセスし、タイの女性向けファストファッションブランド・Pomeloでいくつかのアイテムを選びました。

しかし、荷物が家に届くのを待つのではなく、不要な衣服を返品することに悩まされることもなく、Maneerat氏は、Pomelo製品の受取り場所も兼ねるスタイリッシュなカフェ、Printaで試着を手配しました。この新興小売企業は、市内全域のヨガスタジオ、ブティック、その他のカフェなど約40カ所において、こうしたパートナーシップを確立しています。

30代半ばのオフィスワーカーであるManeerat氏は、ダークグリーンのコットンジャンプスーツを購入し、他のアイテムはPomeloに返品することにしました。 「これは私の体形に合いますね。」とManeerat氏は言いました。 「良い質感と縫製。このサービスは便利ですね」。

アジアは長年にわたり、ファッション業界の製造拠点でした。国連の貿易統計によると、この地域は2015年には世界のアパレル製品輸出の60%を占め、中国、バングラデシュ、ベトナムが上位3社にランクインしました。しかし、所得の増加もあって、アジア諸国でデザイン性に優れた衣服の需要が高まっています。

ユーロモニターインターナショナルのデータによると、東南アジアでは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの6つの主要経済圏を合計したアパレル市場は、2013年の250億ドルから2018年には30%増加し、330億ドルに達しました。

ユニクロ、ZARA、H&Mのような国際的なチェーンストアが業界をリードする一方で、現地発のファッションブランドが増加しています。インドネシアのイスラム教徒向け衣服小売企業のHijup、ベトナムのシューズブランドJuno、シンガポールのLove、Bonitoなどのブランドは全て、拡大する市場内で競争を繰り広げています。そして、ある意味では、Pomeloはデジタル時代のアジアのファッション小売業の性質の変化を象徴する存在といえます。

2013年に設立されたこのウェブサイトは、東南アジアのスマートフォンに夢中な中間層で人気を集めており、ユーザーは毎週オンラインに登場する何百もの新しいアイテムのスワイプを楽しんでいます。同社はまた、2017年にPomeloに1900万米ドルの投資を行った中国のJD.com、タイの小売大手セントラル・グループ、日本のeコマースサイトZOZOなど、一握りの優良投資家からの支持を得ました。スタートアップ情報サービス企業Crunchbaseによると、これまでのところ、この新興企業は合計で3100万米ドルを調達しています。

ディールストリートアジアのレポートによると、Pomeloは今年の別の資金調達ラウンドで5000万米ドルを目指しており、バリュエーションは2億米ドルから2億4000万米ドルに達します。同社は、タイの国内市場で利益を上げているが、収益は開示しない意向を発表しています。

バンコクで150カ所のピックアップポイント、シンガポールでさらに100カ所のピックアップポイントを設けることを当面の計画としながら、Pomeloは各顧客にとって負担となっている、高価なラストワンマイルの配送コストを排除するビジネスモデルで、グローバルブランドに挑戦したいと考えています。

「私たちは東南アジアから次のZARAを生み出したいのです」と創業者のDavid Jou氏は日経アジアンレビューに語っています。 「私たちは、驚くべき創造性、資本、巨大市場、サプライチェーンと製造の近接性、ソーシャルメディアへの取り組みを活用したいと考えています」

しかし、Jou氏はまず第一に、Pomeloは「各都市に事業の密度を築く」必要があると語っています。同社はクアラルンプール、マニラ、ジャカルタ、香港など、すでにオンライン上で顧客を抱えている他の都市でピックアップポイントを設けることも検討していると説明しました。

「これらの都市は全て、今私たちのeコマースを待ち望んでいます。」Jou氏は言いました。 「次のステップは、十分なeコマースのユーザーを獲得した後に、ピックアップネットワークを拡大することです」。

インターネット接続を得た東南アジアの人々は、熱心なモバイルショッパーとなる傾向があります。 We Are SocialとHootsuiteの2019 Global Digital Reportによると、インドネシアでは、インターネットユーザーの76%が過去1カ月以内にモバイル端末で商品を購入したと答えています。タイは71%で3番目、中国はその間の74%でした。

ユーロモニターのデータからは、6つの主要経済圏におけるオンラインのアパレルおよびシューズの売上規模は、5年間で4倍以上に増加し、2018年には26億米ドルに達したことが示されています。

しかし、それと同時に、オンラインショッピングが占める割合は、この地域の小売売上高全体の10%未満に過ぎません。そのため、Pomeloや他のeコマーススタートアップが生み出した話題のほとんどは、各社のデジタルマーケティングに集中していますが、オフライン戦略が不可欠であるといえます。

Pomeloが6月に、シンガポール中心部の高級街オーチャード・ロードで、550平方メートルの旗艦店となる小売店をタイ国外で初めてオープンさせたのは、こうしたことが背景にあるといえます。この店舗はパンツからスカート、アクセサリーまで8000点以上のアイテムを取り揃えており、オンラインで注文した顧客のピックアップポイントとしても機能するものです。

「小売店が実店舗をコミュニケーションセンターおよび配送センターとして使用することは合理的です」と、小売業界のトレンドを研究している東京のファッション企業StylerのCEO小関翼氏は述べています。小関氏は、東南アジアのeコマースサイトの成功の鍵は、消費者との接点であると考えています。

実店舗での接点は、身体にフィットするかどうかが購入時の重要な決定要因となるファッション分野においては、特に意味があると考えられます。しかし、Pomeloは、オフラインの販売手段を模索するアジアのeコマース業者にとっては、大きなトレンドの一部でもあります。中国のeコマース帝国であるアリババグループ・ホールディングは、スーパーマーケット、デパート、そして最近ではコンビニエンスストアに進出しています。

しかし、オフラインでプレゼンスを築いているにもかかわらず、Pomeloは自身をテクノロジー企業と捉えています。同社は最近、オペレーション全体をリアルタイムで監視する、社内のサプライチェーン管理システムを開発しました。このシステムにより、利益率の正確な評価を提供し、顧客の行動を分析することが可能となり、デザインおよび購買チームの意思決定に役立っています。

Jou氏のバックグラウンドは、ファッション業界ではなく、金融、テクノロジー、eコマース業界です。ドイツで生まれ、米国で育った韓国系アメリカ人CEOは、バンコクに移り住む前には、米国のコンサルタント企業とプライベートエクイティ企業で働いていました。

その後、同氏はEC企業のラザダグループのタイオフィスを共同設立しました。ラザダは後にアリババに買収され、現在では東南アジア最大のeコマースプラットフォームの1つです。Jou氏はラザダで得た経験をもとに、Pomeloを設立しました。

Jou氏はファッションに注目した理由の1つとして、自身がタイの重要な資産であると考える「デザイン」を活用したいという想いを抱いていたことを挙げています。

「バンコクに行くと、優れたデザインのカフェ、レストラン、素晴らしいインテリア、手工芸品のような地元の特産品の存在に気付かされます。タイではデザインが非常に洗練されており、その資産、人的資本を活用したビジネスを構築したかったのです」とJou氏は語りました。

現在、同社の約500人のスタッフの中に、約10人の社内デザイナーを抱えています。

スタッフはそれぞれ自分に適した仕事をこなしています。アジアに注力するコンサルティング会社YCP SolidianceタイオフィスのシニアパートナーであるMickael Feigeは、「より激しい競争」はPomeloにとっての課題の1つであると述べました。 「実店舗において、伝統的なファッションビジネスに取り組みながら、Pomeloは、ZARAやH&Mなどの巨大企業との競争環境が激しい市場へと参入しています」。

Feigeは、これらの数十億ドル規模の企業は、「はるかに大きな予算、商品の種類、およびマーケティング力を備えた、巨大なマシンである」と強調しました。

Feigeは、流行が急速に変化するなかでPomeloは「顧客に自社製品に対する興味を持たせ続ける」方法をどうにかして見つける必要があると述べました。リソースは限られているため、「スタイリストが新しい仕立て方や新しいデザインに迅速に対応できず、製品を速やかに市場に投入できない場合」に難しくなるとFeigeは言います。

Pomeloは、顧客ベースを拡大するための取り組みを行っています。当初は女性のファッションのみに焦点を当てていましたが、12月にタイでメンズウェアブランドを立ち上げ、将来的にはシンガポールや他の市場にも導入する予定です。

当面の間、非公開企業であり続けることは「幸せ」であり、新規株式公開の計画は当分はないと述べているPomeloですが、その一方で他の東南アジアのファッションスタートアップと、投資をめぐり競い合っています。

シンガポールのアパレルブランドおよび事業者向けオンラインプラットフォームであるZilingoは、今年合計で2億2600万米ドルを調達しました。ZilingoのCEOであるAnkiti Bose氏は、今年初めに日経アジアンレビューに対して、同社は在庫管理システムなどのテクノロジー製品への投資を計画しており、それがサプライチェーンにおける繊維工場と卸売業者の成長につながると語っていました。 Zilingoはさらに、自社ブランドの立ち上げを計画しています。

Pomeloの競争力は、製品の品質にも左右されると考えられます。Printaカフェでダークグリーンのジャンプスーツを手にしたManeerat氏のように、誰もが縫製に感銘を受けるわけではありません。

Pomeloで買い物をするバンコクの27歳の税務コンサルタントは、デザインは気に入っているが、品質は期待したほど良くなく、購入したドレスの縫い合わせが悪いと語っていました。

それでもアナリストは、東南アジアにはPomeloのような企業が成長するための適切な材料が全て備わっていると言います。

「中間層セグメントの成長に伴うファッションへの需要の高まり、東南アジアにおけるインターネット接続の浸透、そのような需要に応えるオンライン企業の低参入コスト、グロースキャピタルの支援を得る可能性の高まり-これらの全てが現地のファッションスタートアップの最近の成長につながっています」とYCP SolidianceシンガポールオフィスのパートナーであるOmar Azizは指摘しています。

Azizは、ファッションは人々が自分自身を表現する主な手段の1つであるため、その需要は「自然に高まる」と考えています。そして、Jou氏はPomeloが、東南アジアにおけるファストファッションの「新たなハブ」の中心となることを目指しています。

出典:Nikkei Asian Review

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