Grab対GO-JEK:

インドネシアでデジタル業界の

「デカコーン」の競争が激化

100億ドルをめぐるフードデリバリーと電子決済の戦いは、両社に傷を残す恐れがあります。

2019 年 04 月 , 特集:

(以下の通り掲載されています)

ジャカルタ-シンガポールの配車サービスGrabは、インドネシア人の胃袋をつかむことで、彼らの心をつかもうと試みています。Grabはインドネシアの宿敵GO-JEKに対して激しくプレッシャーをかけていますが、最近では日経アジアンレビューに対して、投資家からさらに20億ドルを調達し、その多くをGO-JEKの本拠地におけるデジタル決済やその他のサービス開発に使用する計画であることを明らかにしています。競合相手のベンチャーが単なる輸送手段を超えるアプリへと変貌を遂げようと動くなか、昨年Grabは、フードデリバリー事業に多額の投資を行いました。

これはまさに「タイタンの戦い」であるといえます。CB Insightsが発表したユニコーン企業、つまり10億ドル以上の価値を持つ未上場スタートアップの最新ランキングによると、GO-JEKの企業価値は100億ドルに達しています。従って、同社は今や世界で19番目の「デカコーン」(企業価値が100億ドル以上と評価されるスタートアップ)であり、東南アジアでは、140億ドルと評価されるGrabに次ぐ2位につけています。

しかし、この巨大企業2社が新たなプロジェクト、マーケティング、および人材採用にお金を注ぐにつれて、彼らはいつまでこれを維持できるかという疑問が沸き上がってきます。

GrabインドネシアのRidzki Kramadibrata社長は、「インドネシアは東南アジア最大の人口を抱える市場であり、Grabにとって非常に重要な市場です」と述べ、2億6000万人以上を抱えるこの国について、「私たちの運転手と店舗パートナーの半分以上の本拠地であり、弊社はこれまでに10億ドル以上をこの国に投資してきました」と語っています。

昨年9月、Grabはインドネシアで攻勢をかけるべく、ジャカルタの街角の目立たない場所にある古く平凡な建物に、新たな拠点を開きました。この建物はGrabキッチンと呼ばれていますが、GO-JEKが市場を牽引するデリバリーサービスであるGo-Foodに真正面から挑戦することが狙いです。

この105平方メートルの施設は午前10時から午後10時まで稼働し、1日に200から300件の注文を処理します。鶏の串焼きやチョコレートミルクティーを買いたい消費者は、Grabアプリを利用するだけで、注文が可能です。次々と、配車サービスのドライバーも兼ねた同社のオートバイが、食事や飲み物を手に入れるために行き来しています。

マカッサルから1400km離れた場所に位置する人気のフライドチキンレストランの50歳になるオーナーKoni Chandra Kalyani氏は、ショッピングモールや中心部のショッピング街ではなく、Grabキッチンに初のジャカルタ支店をオープンすることを選びました。Grabのフードデリバリー部門の責任者Tomaso Rodriguez氏は、同社は需給データに基づいて、この場所とテナントを選んでいると日経に語っています。

マカッサルで確かな実績を持っていたKoni氏の店舗は、Grabだけで毎日500件以上の注文を受けました。

Rodriguez氏は、Grabの飲食事業への拡大は「自然な流れ」であると述べています。配車サ―ビスの業者にとっては、既存のドライバーネットワークや顧客基盤からより多くの収益を得るための明白な方法であるといえます。

2018年、Grabはインドネシアでパートナーレストランを8倍に増やしました。

Grabが昨年3月に米国の大手ウーバー・テクノロジーズの東南アジア事業を買収してから1年が経ちました。それ以来、このシンガポール企業は新たな資金とパートナーシップの確保を急ぎ、地域および世界の投資家から45億ドルを調達しました。これらの資金の大部分は、2014年に同社が初めて参入したインドネシアに向けられました。

Grabが展開する8つの市場の中で唯一、現地発の強力な競合企業が存在するインドネシア市場を制するためには、同社は特に労力をかける必要があります。2018年2月の市場調査によると、インドネシア人の56%がGO-JEKを最も多く使用すると答え、Grabがそれに次ぐ33%にとどまり、Uberは8%でした。しかし、Uberの買収はGrabに勢いを与え、同社はインドネシアでの収益が2018年に2倍以上になったと述べています。

アプリ分析プラットフォームApp Annieによると、インドネシア人は今年の1~3月の期間にGrabのアプリがGO-JEKよりも13%多くダウンロードされています。全ての市場において、Grabの通算ダウンロード数はGO-JEKの2.4倍を超えています。したがって、インドネシアでの成功は、その地域での支配を固めるものと考えられます。

ジャカルタ在住27歳女性のAnindita Kusuma氏は、両方のアプリを使っているものの、Grabを使うことが多いと語り、「私はかつて『ナショナリズム』の精神を持つGO-JEKのロイヤルユーザーでしたが、今ではプロモーションやよりお得な電子決済が理由でGrabを好んで使用しています」と答えました。

ジャカルタのショッピングモールのいたるところで、電子決済をめぐる戦いの兆候がみられます。店舗には、インドネシアのコングロマリットLippo Groupの電子マネーサービスであるGO-JEKのGO-PAYとGrabのパートナーOVOの「キャッシュバック」キャンペーンを宣伝するポスターが掲示されています。

昨年末のフィナンシャル・タイムズ・コンフィデンシャル・リサーチの調査によると、インドネシアの回答者の約75%がGO-PAYを使用し、42%がOVOを使用しています。

Grabは、OVOのようなパートナーシップは、単独で攻略するのが難しい市場への浸透を助ける存在であり、インドネシアの戦略にとって重要であると考えています。3月上旬、Grabは別のインドネシアのコングロマリット、シナール・マス・グループとのスマートシティプロジェクトを発表しました。

GrabとGO-JEKはインドネシアのデジタル覇権を争っていますが、両社はまた、配車サービス事業者の強さは、主にオートバイが中心のドライバーネットワーク次第であることを理解しています。Grabバイクラウンジは、同社がドライバーを維持するための取り組みの一環です。

11月にオープンしたジャカルタでは2件目となるバイクラウンジは、小さなカフェと礼拝室を備えた1,000平方メートルのスペースで、地元の標準価格を大きく下回る1万5000ルピア(1.20米ドル)で散髪を行う理髪店も入居しています。Grabは、午前8時から午後9時までの営業時間中に約300〜400人の運転手がこの場所に戻ってくると述べています。

「ドライバーには休憩が必要です」と、インドネシアのGrabのバイク事業の責任者、Richard Aditya氏は答えました。「彼らはさらに、他のドライバーとつながる場所が必要です。弊社はこれをドライバーの福利厚生の一部と考えています」。同氏は、ドライバーがGrabにとどまるよう説得するためには福利厚生がますます重要となっており、同社は全国にラウンジを開く予定であると述べました。首都に5カ所を構える予定です。

ドライバーの争奪戦は高い賃金を要しません。

ジャカルタの31歳のGrabドライバーは、日経のインタビューに対して、1日に10万~15万ルピア(7~10.5米ドル)を稼いでいると語りました。これは月収に換算すると、ジャカルタの最低賃金である394万ルピアを下回る可能性があります。

38歳のGO-JEKのドライバーは、ここ数カ月のうち、1日で最も多く稼いだ日の売上は約30万ルピアであったが、10万ルピア前後にとどまる日もあると述べています。GrabとGO-JEKの両方のドライバーは、移動運賃の約80%と、業績連動のインセンティブを受け取っており、1つのプラットフォームと独占的に契約しているわけではありません。

ドライバーはGrabかGO-JEKのいずれかで同じくらい収入を得られる立場にあるため、企業が彼らの満足度を維持するためには、福利厚生プログラムが不可欠となります。

GO-JEKは2016年に、保険と財政計画の支援を含む福祉パッケージを導入しました。このインドネシア企業は、他のドライバーの業務をブロックするなど、より幅広いサービスを提供しており、この措置により、ドライバーの待機時間が短くなり、より多くの賃金確保につながる可能性があります。

「既存の市場からではなく、未開拓の市場からシェアを獲得するつもりです」とGO-JEKの商業部門責任者であるRyu Suliawan氏は述べています。そして、同氏はGO-JEKはインドネシアの企業として、国内のニーズを満たす責任があると答えました。「当社の経営陣はインドネシアから脱け出すことはできません。私たちは自国に対して責任を負います」。

競争がすぐに沈静化する兆候はみられません。世界の複数の大企業がその背後で投資を進めています。Grabには、ソフトバンクグループ、トヨタ自動車、マイクロソフトが、GO-JEKには、グーグル、テンセントホールディングス、JD.comが出資しています。

巨大化し、成長も著しい両社ですが、GrabもGO-JEKもリスクとは無縁ではありません。インドネシア政府は3月、消費者に損害を与えることなくドライバーの収入を確保するために、最低運賃と最大運賃を設定すると述べましたが、コストが高騰化することで配車サービス企業の経営を苦しめる可能性があります。政府のこの決定は、昨年に抗議行動の発生にもつながった、低賃金に関するドライバーの苦情に対応するために行われたものです。

業界専門家はさらに、各企業が電子マネー「キャッシュバック」キャンペーンを含む消費者やパートナーへの積極的で費用を要する施策を取ることで、自分自身を傷つける可能性があると警告しています。

「GrabとGO-JEKはエコシステムの開発に非常に成功しています」とジャカルタのコンサルタント会社YCP SolidianceのパートナーであるGervasius Samosirは述べています。「しかし、顧客やビジネスパートナー、つまりドライバー、店主、レストランなどには、課題がみられます」。

「GO-JEKとGrabの両方が、彼らのロイヤルティを維持するためにお金を注いでいます。この終わりのないゲームを終わらせる必要があります」とSamosirは指摘しました。

本レポートは、日経スタッフライターの谷翔太朗氏がジャカルタに寄稿したものです。

出典:日経アジアレビュー


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