北京の大気汚染との戦いが、自動車メーカーに意味することとは

巨大都市でありながら車両数が厳しく規制される北京。Automotive Worldは、北京の交通エコシステムがどのように進化しているかを詳細に伝えています。

2019 年 09 月 , 特集:

2019年9月-中国の大気汚染との戦いは長年にわたって頻繁にレポートされてきたため、ステレオタイプとして定着しました。酸性雨、光化学スモッグ、および工場の煙突から上がる黒煙-そうした画像は、観光パンフレットに掲載されることはありません。それでも、同国の都市部は長年にわたって、これらの問題を抱えてきました。

人口に関して言えば、北京ほど過密状態にある都市はありません。北京は上海に次いで中国で最も多くの都市人口を抱えています。さらには、世界で最も人口の多い首都であり、他のどの都市よりも多くのフォーチュン・グローバル500企業が拠点を構えています。 「北京は1560万人の生産年齢人口を抱えており、そのうち40%は毎日公共交通機関で通勤しています」と、アジアを中心とするコンサルティング会社YCP SolidianceのシニアパートナーであるNicolas Pechetは語ります。勤務時間は、他の主要な都市部よりも厳格である傾向が強く、ラッシュアワー時の交通はさらに困難なものといえます。 1年のうちの特定の時期、特に9月の祝日期間には、ラッシュアワーは最長5時間続きます。

北京は、中国本土においては主要な交通拠点の1つであり、道路、空路および鉄道の接続が良好です。 「中国最大の空港は北京にあり、国内で最も重要な鉄道の拠点が存在し、多くの国道が北京から放射状に広がっています」とPechetは付け加えました。市内には合計で約3万1000台のバス、6万8000台のタクシー、310万台の自家用車が存在します。地下鉄の路線網の長さは636.8キロメートル(395.7マイル)に達します。

多数の人口と車両を抱える北京において、交通機関の排ガスが注目されているのは不思議なことではありません。北京のPM 2.5排出量の45%は交通機関が原因であり、続いて建設プロジェクトなどによる粉じん粒子がPM 2.5排出量の16%を占めています。PM 2.5の約12%は、複数の工場施設から排出されています。ディーゼル車は、市内の大気汚染の最も重要な原因の1つです。 Pechetによると、大型トラック、小型商用車、バスなどのディーゼル車は、NOxの68.3%とPMの99%、CO2の11.9%、HC排出量の22.9%を占めています。一方、ガソリン車とタクシーは、CO2の85%、HCの73.5%、NOxの26.8%、PM排出量の1%未満を占めています。

車両の所有と使用の制限

北京当局は、同市のスモッグの写真が世界で取り上げられている状況をよく理解しており、いくつかの異なる角度から、交通機関の排出量の問題に取り組んでいます。交通機関による排出量を削減する方法の1つは、道路上の車両の数を減らすことです。これは、2011年1月に導入された同市のナンバープレート抽選制の背景にある考え方です。居住者が車を運転するには、事前に抽選でナンバープレートを取得する必要があります。発行されるナンバープレートの数は年々減少しています。 2018年の最初の隔月の抽選では、1200万人を超える応募者が、小さな6460枚のプレートをめぐり競い合いました。昨年、同市は発行される新しいプレートの数を10万個に制限しました。前年の15万枚と比較すると、33%の削減です。発行数全体のうち、ほとんどが新エネルギー車(NEV)を対象としています。従来の自動車に発行されたプレートは、わずか4万枚のみでした。

居住者がナンバープレートを取得した後も、常に運転できるわけではありません。時折、市当局はナンバープレートを「奇数・偶数」に分けて走行規制を実施しています。この措置は、ナンバープレートの末尾が偶数の車両が特定の日に道路の通行が可能となり、他の日に奇数の車両の通行が許可されるというものです。この規制は、通常は大気汚染レベルが最も深刻となった際に実施されます。違反者には、200元(30米ドル)の罰金と、運転免許の違反点数として3点が課されます。1年間で合計12ポイント課されると、運転免許を失うことになります。

渋滞税の導入によっても、運転手が車で北京へ乗り入れることを抑制する効果が期待されます。政府は長年にわたってこの提案を検討してきましたが、決定的な動きには至っていません。理論的には、ロンドンやストックホルムで運用されているものと同様の形式が採用されるものとみられます。

排出基準


また、北京では低排出ゾーンが指定され、車両の利用が制限されています。 2017年9月に導入されたこの規制は、「国4」基準を満たしていない大型商用車の市内への乗り入れを防ぐものです。このゾーンで最も汚染が深刻となるトラックの進入が制限されることで、毎年推定43人の命が救われることになると期待されています。

中国は、国家全体で、車両の排出規制を厳しく取り締まっており、新たに「国6」基準を導入しています。 「道路を走行する車両に対してますます厳しい基準を適用することで、長期的にきわめて大きな影響が生じる可能性がある」とPechetは述べています。特に注目すべき点として、中国政府が「国6a」基準をスキップし、「国5」排出基準から直接「国6b」を前倒しで導入することを決定しています。 「国6b基準は、交通機関の排出基準としては最も厳しい」と同氏は付け加えました。 「ユーロ6よりもはるかに厳しい」。

下の2番目の表は、「国6b」と「ユーロ6」の違いを示しています。2019年7月現在、2293の軽量自動車モデルを持つ102の自動車メーカーが、「国6b」の認証を受けています。大型車セグメントでは、1369モデルを持つ74の自動車メーカーが、認証を受けています。Pechetは、2018年時点で中国には約4000台の軽量自動車モデルと約3500台の大型車モデルが存在すると推測しています。これは、軽量自動車モデルの45〜50%と大型車モデルの60%が、現時点で「国6b」基準を満たしていないことを意味します。 「北京政府は、2020年1月以降、全ての車種に対して「国6b」基準を導入する予定。このシフトにより、自動車業界に多くの変化が生じるものと想定されます」とPechetは予測しています。

完全電動タクシー

電気自動車(EV)は、北京の交通機関排出量の削減に大きな役割を果たすとみられており、政府は、事業者と個人の両方に対して、導入インセンティブを提供しています。特に、タクシー業界において、新たな補助金プログラムを背景として、EVの浸透が大幅に拡大する可能性があります。北京は、深センに続く形で、タクシー事業者に対して現在、内燃機関(ICE)車両をバッテリー式電気自動車(BEV)に切り替えた場合に、最大1万727米ドルを補助しています。この措置の対象事業者となるためには、2018年から2020年の間に、タクシー事業者は車両を廃棄する必要があります。

「この補助金は、全てのタクシー車両をBEVに切り替えるという現地政府の長きにわたる公約を背景に導入されたものの、当初のプログラムにおいては、政府が6万7000台強のタクシー車両向けに交換費用を負担するかどうか明言していませんでした。」 フィッチ・ソリューションズの自動車業界リサーチ部門長であるAnna-Marie Baisden氏は述べました。 「補助金が導入されれば、地元のタクシー事業者は、老朽化し​​た車両をBEVに切り替えるために迅速に行動するものと考えられます」。

しかし、Baisden氏は、この野心的なタクシーの切り替えプログラムの実現性については懐疑的であり、すでに遅れが生じている点を指摘しています。 「当初、北京当局はタクシー購入代金への補助金提供に積極的ではなく、タクシー事業者に車両をEVに交換すべきかどうかの判断を委ねていました。しかし、中国での乗用車の需要が低下したことから、政府は自動車メーカー向けの減税やEVの購入に対する補助金の導入など、自動車の普及を促進するための複数のプログラムを導入しました」。

公共交通機関、モビリティ・シェアリング

公共交通機関への投資も、同市の排出量と交通渋滞に対する取り組みに貢献しており、移動者の目的地までの移動は、より簡単かつ便利なものとなっています。イプソス・ビジネス・コンサルティングの中華圏ビジネスコンサルティング部門長であるWijaya Ng氏は、「北京の全体的な交通ネットワークは、深刻な渋滞に悩まされていた5年から10年前と比較すると、著しく改善されました」と述べています。

2015年に18から2018年に22にまで新しく地下鉄路線が追加されたことが、改善に至った一因であり、年間の利用者数は16%増加しました。バス路線の数も同様に若干増加し、2015年の876路線から2018年には888路線となりました。公共交通機関は、よりスマート化されています。北京市交通局の「第13次5カ年計画におけるインテリジェント交通プラン」の下で、一連のモバイルアプリが導入されました。これらのアプリにより、ユーザーはモバイル端末でより便利にバスと地下鉄の運行スケジュールと経路を確認できます。交通計画担当者はさらに、混雑分析と機械学習機能を活用し、公共交通機関のスケジュールを最適化しています。

一方、モビリティ・シェアリングのスキームも影響を及ぼしています。 「環境に優しい通勤を促進するために、相乗りサービスや配車サービスは、過去5年間のうちに、一連の規制を経て合法化されました。現在ではそれらのサービスは利用可能となっています」とNg氏は述べました。 北京では2018年だけで、配車サービスは約1億回利用されたとみられています。

様々な成功の度合い

ナンバープレートの規制、渋滞税、低排出ゾーン、EV補助金、および移動手段の共有スキームはいずれも、同市の排出削減目標に貢献するものですが、その程度は様々です。 「奇数・偶数のナンバープレート規制は、北京における交通手段排出量を削減するうえで、間違いなく最も効力を発揮する政策であるといえます」とPechetは述べています。 「ナンバープレートを競売にかけることによって従来の車両の販売を制限することは、大気汚染への対処策としては十分ではありませんでしたが、奇数・偶数の規制により、道路上の車両数を半分に減り、これにより北京の排出レベルは大幅に改善されました」。

同市はさらに、市内または近郊の石炭火力発電所を閉鎖するなど、交通分野以外の対策を実施しており、その一部は、排出量の削減に大きく貢献しています。しかし、Pechetは以下を強調しています。「この巨大な課題に対する単一の解決策は存在せず、政府が実施している多面的なアプローチは効果を示しています。これらの措置により、北京市は2013年から2017年の間にPM 2.5レベルの35%削減を達成しました。もちろん、依然として多くの課題が残っています」。

長期目標

「環境の持続可能性に関する現代の考察」誌に掲載された最近の研究では、北京は2050年までにCO2排出ゼロを達成する可能性があると結論付けられました。エネルギー環境政策統合評価モデルをもとに、研究者は、交通機関の急速な脱炭素化、ゼロ・エミッションの冷暖房、有害排出物を抑制するテクノロジーにより、この野心的な目標の達成は理論的に可能であると言及しています。しかし、他の人はどう考えるでしょうか?

2018年、北京市生態環境局は、短期3年計画に関する概要を述べました。この野心的な計画では、2020年末までに達成されるべき具体的な環境目標が設定されました。2017年のデータを基準値として交通機関排出量を30%削減する目標がこれに含まれています。この計画ではさらに、北京の路上で40万台のNEVを走行させることも目標とされています。 2018年末時点で、NEVの台数は2017年の17万台から23万台に増加しました。別の目標では、輸送構造の最適化が挙げられており、大気汚染を減らすために、商品の10%を自動車ではなく鉄道で配送することが掲げられています。政府は2019年の年末までに、製品の約8%が鉄道で輸送されることを期待しています。

ゼロ・エミッション交通の公式な目標は存在せず、これを達成するための計画もありません。これには、多くの理由が考えられます。 「そもそも、このような広大な都市において、従来型車両からの切り替えを行うことは、経済的、ロジスティック的に極めて困難といえます」とPechetはAutomotive Worldにおいて語っています。 「政府当局者は、2050年までは、従来型車両は利用可能な選択肢であり続けると考えています。次に、政府は、従来型車両を段階的に廃止する具体的なスケジュールを公表​​すると、短期および中期的に中国の自動車産業に悪影響を及ぼす懸念が想定されます。中国の自動車産業は世界最大であり、中国経済にとっても重要なドライバーであるため、政府はこの壮大な移行に伴う複雑な問題を全て慎重に処理する必要があります」。

この記事は、Automotive Worldの特別レポート「都市はどのようにゼロ・エミッションの課題に取り組んでいるのか?」の一部を抜粋したものであり、同レポートは現在ダウンロード可能です。

出展: Automotive World

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