ハイブリッド勤務:東南アジアにおけるオフィスライフの将来像

東南アジアでの柔軟な働き方とは

2021 年 09 月 , by Alexandra Santiago

20203月、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するために世界各国でロックダウンが実施され、オフィスライフが一変しました。企業では在宅勤務制度の導入が必要になり、会議は従来の対面形式からビデオ会議とクラウドでのファイル共有に移行しました。

 

こうした新しい働き方は、この1年でニューノーマルとして定着しました。東南アジアの企業は、新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために、今後も在宅勤務制度を維持する方向で検討しています。その中で、柔軟な働き方として様々な業界で取り入れられているのが、ハイブリッド型の勤務形態です。


ハイブリッド型の勤務形態

ForbesBBCなどのメディアは、ハイブリッド勤務を「オフィスとリモートの両方で柔軟に働く勤務形態」と定義しています。ハイブリッド勤務の実現可能性は、業務の性質に大きく左右されます。この勤務形態で最も恩恵を受けるのは、オフィスワーカーや、デジタル化が進んだeコマースやテクノロジー分野の労働者だと考えられます。ハイブリッド勤務は物理的な側面で注目されることが多いですが、YCP Solidianceの専門家チームは、それに加えて、ハイブリッド勤務がマインドセットにも変化をもたらすことに着目しています。

 

YCP Solidianceのパートナーで、アジアとヨーロッパのクライアントを担当しているNaithy Cyriacは次のように述べています。「人事評価は労働時間で判断されず、過程よりもアウトプットが重視されるようになります。物流や銀行などの伝統的に業務が対面で行われる分野でも、働き方の見直しが加速しています。」

 

YCP Solidiance フィリピンオフィスのディレクターであるAnna Rellamaも同意見です。「スタッフの自主性も高まります。長期的には、ネガティブな影響よりポジティブな影響のほうが多くなると考えられます。柔軟性を受け入れることは、一般的に組織にとって素晴らしい特性となるからです。」


文化的背景

CyriacRellamaも、新型コロナウイルスの流行に伴いハイブリッド勤務を取り入れていますが、東南アジア地域でその効果を発揮するには、家族の絆や仲間意識を重視する地域文化と両立させる必要があると指摘しています。

 

YCP Solidianceのパートナーで、タイオフィスでオペレーションを担当するMickael Feigeもこの点を指摘しています。「彼らは同僚との仲間意識の高い雰囲気を好みます。チームで一緒にランチを楽しんだり……リモートワークによってそれができなったことに寂しさを感じています。」

 

東南アジアの従業員がオフィス勤務に戻ることを希望する中心的な理由は、家族のように親密な雰囲気の中で一緒に働きたいという思いです。たとえば、Microsoftの調査によると、フィリピンの労働者の78%は、新型コロナウイルスの感染拡大を懸念しているにもかかわらず、対面でのチーム内の交流を求めており、オフィス勤務に戻る理由としてこれを挙げています。

 

しかし、従業員たちは、自身がウイルスに感染したり、家族に感染させたりすることを懸念して、実際にオフィスに戻ることには慎重になっています。また、東南アジアの国々では家族の関係が密接なため、社会人の大半が、都市の狭い居住空間で、親や兄弟、その他の親族と一緒に暮らしています。

 

Savillsの調査によると、ロサンゼルスやパリなどの欧米の都市では、居住空間が広く、インターネットの通信速度も速いため、リモートワークをより早く導入することができた一方、ホーチミンのような都市では急速に導入することは難しいとしています。またFeigeは、東南アジアでは、熱帯性の気候が、フルタイムで在宅勤務をすることへの抵抗に繋がっていると指摘します。このように、協力的な空気の中で優れた能力を発揮することと、大切な人の安全のバランスを取ることは、ハイブリッド勤務戦略を検討する上で最も重要なことの一つです。


 東南アジアの企業への提言

ハイブリッド勤務への移行には様々な困難が考えられますが、下記のように、リスク要因やアウトプット、そして第一に従業員ごとのニーズを考慮し、在宅勤務の最適な方法を検討することによって、ハイブリッド勤務への移行を実現することができます。

 

·       体制の整った、柔軟性の高いハイブリッド勤務の仕組み作り

多くの企業で採用されている勤務体制は、分割シフトまたはローリングシフトと呼ばれる、従業員をチーム分けしてオフィスへの出勤日を決める方法です。Cyriacはこれについて、「出勤時間や労働時間の要件を再検討し、労働時間の長さよりも質の高いアウトプットを重視する制度を整えること」が必要であるとしています。

 

·       データセキュリティ戦略の見直しと、最新の機密保持対策の従業員への周知

データ管理に関する安全対策は、全従業員が実施しなければなりません」とFeigeは強調します。オフィスにいる人数が少ない場合は、デジタルな手段による文書や資産の保護に優先的に取り組む必要があります。

 

·       オフィススペースの必要性の見直し

Feigeはまた、デジタルソリューションや新型コロナウイルスの感染対策に投資する企業の増加に伴い、ハイブリッド勤務がオフィス不動産に大きな影響を与えると指摘します。シンガポールのように物価の高い地域の企業は、すでに現在の不動産を見直しています。

·       オープンなコミュニケーションを通じて、従業員とそのニーズを第一に考える

Rellamaは、チームワークを重視する東南アジアの従業員にとって、オンラインでも安心できる空間を作ることが欠かせないと言います。「オンラインでも定期的にチェックインミーティングを設定しましょう。チーム内の繋がりを感じられることが重要です」。この他、リモートヘルスケア、家族のための休暇、プライベートやメンタルヘルスについてのオープンな会話など、従業員の福利厚生を重視することも必要となります。

 

Cyriacは、「世界がグローバル化するにつれ、ハイブリッド勤務はより一般的になっていくでしょう」と結論づけています。そして、将来を見据えた新しい働き方を選ぶ従業員が増えている昨今、企業には、勤務体制の移行に必要な変化に対応することが求められています。

 

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