次世代IT CEOはインテグレーションをマスターするべき

テクノロジーとビジネスが密接に関係するようになった昨今、IT CEOの役割は変化しつつあり、次世代のIT CEOには、インテグレーションをマスターすることが期待されています。

2023 年 02 月 , by Abhisek Mukherjee

YCPグループ企業であるAuctus Advisors社のディレクター兼共同創業者Abhisek Mukherjeeが、インド最大級の経済メディア「Mint」にコラムを寄稿しました。本コラムはlivemint.comにも掲載されています。また、Auctus Advisors社の詳細情報はこちらからご確認いただけます。

次世代のIT CEOは、インテグレーションをマスターする必要があります。コンサルティング、デザイン、アナリティクス、エンジニアリングを融合させ、相乗価値を生み出すことが事業の成功に繋がるためです。こうした状況の背景として、以下3点のトレンドが影響しています。

1点目は、ビジネスとテクノロジーが密接に関係するようになったことです。5年前、鉄道企業や小売コングロマリットは、テクノロジーについて考慮せずに成長戦略を構築することができました。しかし現在は、データエンジニアリング、データアナリティクス、カスタマーエクスペリエンス、フロントエンドのデザイン、バックエンドのクラウドメカニックを統合することが不可欠です。この数年間で、IT CEOが率いる組織は、ITサービス企業から、統合的なビジネスソリューション企業へと変化してきました。

2点目は、IT予算がビジネス部門のCXOに委ねられるようになったことです。以前は、「運用」と「変更」両方の予算が最高情報責任者(CIO)の権限下にありました。しかし現在は「変更」予算に関する権限が、最高デジタル責任者(CDO)や、最高収益責任者、最高サプライチェーン責任者といったビジネス部門のCXOに急速に移行しています。一般的にCXOは、テクノロジーよりもビジネス成果を重視します。IT CEOは、予算を獲得するために、CIO以外の役員に対しても改めてポジショニングとアピールをしなければなりません。

3点目は、クライアント企業のビジネス成果に直接インパクトを与える企業が高く評価されるようになったことです。インドでは、FractalやTredenceのようなアナリティクス企業が1時間あたり40ドル以上の費用を請求できるのに対し、IT企業の相場は20ドル台前半です。その結果、アナリティクス企業のEBITDA倍率は30倍以上、IT企業は10倍程度という差が生じています。したがって、IT CEOは、自社の「重心」をバリューチェーンの上流に置き、クライアント企業のビジネス成果を上げることを重視する必要があります。

近年、こうした傾向が顕著になったことで、M&Aが活発に行われています。マッキンゼーをはじめとする経営コンサルティング企業は、バリューチェーン下流の機能を取り入れるために、アナリティクス、デザイン、エンジニアリングを行う企業を買収しています。一方でIT企業もまた、ニッチなコンサルティングファーム、デザイン企業、アナリティクス企業を買収することで、自社のポジションをバリューチェーン上流に移そうとしています。

一般的傾向として、トップクラスの経営コンサルティングファームも大手IT企業も、コンサルティング、デザイン、アナリティクス、エンジニアリングという4種のビジネスを融合させる形で組織の再構築を目指しています。これはある意味で、アクセンチュアのモデルを再現しようとする試みであると言えます。

アクセンチュアが提供するサービスや人材はインドのIT企業と同水準ですが、コンサルティング主導型という位置づけによって、より高額の費用設定を実現しています。

しかし、多くのCEOが身をもって学んでいるとおり、企業買収が成功してもインテグレーションが成功するとは限らず、インテグレーションが成功したとしても、求められるバリューの実現には直結しません。

マッキンゼーのようなコンサルティング企業は、アナリティクス、デザイン、エンジニアリング企業から請求できる費用相場が比較的低いことに苦慮しています。IT企業は、コストが重視される環境の中で、人件費が高く野心的な企業文化を持つコンサルティング企業との折り合いをつけることに苦心しています。

そのため、IT CEOはインテグレーションをマスターすることで、今後10年間で非常に大きな成功を収めることが期待できます。インテグレーションをマスターするためには、以下2点の能力が必要になります。

第一に、統合する各ビジネスの文化を正確に理解する必要があります。経営コンサルティング企業には、取締役会やCEOのために小さくてもインパクトのある課題を解決する、自信を持った業績主義の人が多く所属しています。彼らは高い報酬を得ており、多額の経費を使い、早期昇進を目指しています。

デザイン企業には、デザインの力を信じる、気まぐれで一風変わった人が多く所属しています。彼らは他者と異なる視点を持っており、そのためにトラブルが生じる場合があります。アナリティクス企業は、データ分析分野ではコンサルタントと、データエンジニアリング分野ではIT企業と競合するため、立ち位置に悩む場合があります。

そのため、企業文化に応じて異なるタイプのリーダーシップ、組織構成、インセンティブ構造が必要となります。

こうした多様な文化をインドのIT文化(大規模で比較的シンプルなプロジェクトを低コストで遂行する)内で統合することは、非常に困難であると考えられます。

第二に、前述した4種のビジネス構成要素が、収益、マージン、バリュー、影響力にどのように貢献するかを理解する必要があります。コンサルティングは、収益が少額であっても高いマージンが得られ、企業全体のポジショニングと比較して大きな影響力を発揮できます。デザインは、効果が限定的であるものの、消費者行動に対して影響力を持つことで事業戦略に影響する場合があります。

インテグレーションをマスターしたIT CEOは、適切なチームを、適切な課題に対して、適切なインセンティブ構造で配置し、クライアントにエンドツーエンドのバリューを提供することができます。つまり、構造的なインテグレーションを行わなくても実質的な統合を進めることができるのです。

インテグレーション能力は今や「持っていて損はない」ものではなく、次世代のIT CEOにとって「持っていなければならない」能力であると言えます。

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