気候変動をめぐる議論で 

国家が主導的役割を果たす

中国政府はパリ協定の原則を固く支援しています。

2019 年 06 月 , 特集:

(ニューヨークタイムズ掲載記事)

米国が2017年に気候変動に関するパリ協定から脱退したことを受けて、中国が交渉において最も重要な役割を果たす存在となりました。

パリ協定は、世界の温室効果ガス排出削減対策とファイナンスについて一連の目標を定めた気候変動に関する国連枠組条約に基づき、2015年に署名された協定であり、2020年から導入される予定です。

この協定が掲げる目標は野心的ですが、文言の詳細部分は曖昧な内容となっており、協定が現実的な効力を持つかどうか、あるいは経済面で豊かな国に有利に働くものではないかと、一部の国々は疑問を抱いていました。

ポーランドのカトヴィツェで開かれた国連気候変動会議は、協定の実施方針を完成させる責任を担っており、中国はこの協定の理念を強力に支援しています。

気候変動問題に関する中国の特別代表、謝振華氏は、同国は引き続き世界の取り組みにおいて中心的な役割を果たすつもりであると述べました。

謝氏は9月14日、米国サンフランシスコで開催された3日間のグローバル気候行動サミットの後に開かれた記者会見で発言しました。

サミット期間中に、10の中国の慈善団体、財団、研究機関が、中国政府を全面的に支援するために、国際気候変動行動イニシアチブを立ち上げました。これは、習近平国家主席から発表された、気候変動に関する一連のコミットメントを果たすために作られたものです。

これらのコミットメントには、気候変動を抑制するための世界的な取り組みに国家として貢献すること、この問題に関する南南協力を促進すること、「グリーンな」一帯一路政策を構築することが含まれます。

中国社会と国際社会は、気候変動に積極的に対応し、世界で生態文明を構築するための持続可能な開発を促進すべく、直ちに行動を起こすことが求められています。

謝氏は、「中国は大きな困難を克服し、(気候変動をめぐる世界的な取り組みに)多大な貢献を行ってきた」と述べています。

同国は2030年ごろまでに温室効果ガスの排出をピークにすること、国内総生産(GDP)当たりの排出量を2005年を基準値として60~65%削減すること、総エネルギー消費量における非化石エネルギーのシェアを約20%に増やすこと、森林蓄積量を2005年比で約45億立方メートル増加させることを宣言しています。

謝氏によると、中国は再生可能エネルギーの開発に1270億米ドル以上を投資しており、この分野への投資では6年連続で世界第1位にランクインしています。同国の再生可能電力の設置容量は2017年に6億5000万キロワットに達し、世界全体の30%を占めている、と同氏は語っています。

「中国は再生可能エネルギー開発において顕著な成果を上げています。新しい技術と大規模な製造によりコストが大幅に削減され、再生可能エネルギーのコスト効率は従来のエネルギーと匹敵するレベルに達しています」と謝氏は付け加えました。

熱波警報

中国は国内の気候が急速に変動していることを認めています。

7月には、多くの地域が熱波の影響を受け、警報が発令されました。遼寧省、吉林省、湖北省、重慶省、新疆ウイグル自治区、内モンゴル自治区では7月31日に、灼熱の暑さが記録されたと、新華社が報じました。

中国気象局は、7月は平年もより暑く、湿度が高かったと伝えています。

上海はその月に11日間の熱波に見舞われましたが、これは過去145年で上海で記録されたものとしては最長であると新華社が7月29日に報じました。7月21日には同市では40.9°Cの気温が記録され、これは現地の気象記録が開始されて以来、最も高い気温となりました。

中国をはじめとする国々にとって、気候変動は、特に大気汚染が深刻なレベルに達している都市部において、重要な課題となっています。

上海に拠点を構えアジアに注力する戦略コンサルティング会社YCP SolidianceのパートナーであるNicolas Pechetは、「中国の中央政府指導部は、劣悪な環境条件は社会の安定に深刻な影響を及ぼし、富裕層の移住につながることを痛感しています」と述べました。

中国経済はすでに、より緩やかな経済成長、成長の質への注力、重工業からの脱却を特徴とする、「ニュー・ノーマル」の状況にあるとPechetは述べています。

同国の工業部門は、国内エネルギー消費量の70%以上を占め、現在の経済発展を支えています。

第13次5カ年計画(2016~2020年)は、エネルギー消費量を15%削減し、二酸化炭素排出量を18%減少させる一方で、森林面積を全陸地面積の23%以上に引き上げることを規定しています。

「これらの目標が達成されれば、中国は2030年またはそれよりも早く二酸化炭素排出量をピークとする、気候変動に関するパリ協定に基づき発表されたコミットメントに向けて大きな進歩を遂げるだろう」

Pechetは、国連気候変動に関する政府間パネルにおいて、地球環境の将来に関する残念な警告が出された直後にこう話しました。

10月8日に発表されたパネルの報告書において、世界有数の気候科学者の一部が、地球の温暖化が最大1.5℃に保たれるのは、もっと12年であると警告しています。これを超えると、0.5℃の上昇であっても、干ばつ、洪水、極端な暑さや貧困を世界中の何億人もの人々にもたらすことになると彼らは訴えました。

この画期的な報告書の著者は、目標を達成するためには緊急かつ前例のない改革が必要であると述べ、これは世界的な気温上昇を1.5~2℃の間に制限することを約束するパリ協定よりも野心的な動きであるが、手頃な価格で実現可能であると付け加えました。

1.5℃の地球温暖化に関する特別報告書は、10月初めに韓国の仁川で開かれた会議でパネルにより承認され、ほとんどの政府がパリ協定を見直す姿勢をみせるなか、12月2日から14日までカトヴィツェで開催された国連気候変動会議で発表された主要な科学論文の1つでした。

地球環境保護団体「ザ・ネイチャー・コンサーヴァンシー」でアジア太平洋地域のマネージング・ディレクターを務めるCharles Bedford氏は、「この報告書は、これまでのようにビジネスに固執すれば、何が危機に瀕しているのかを皆に思い出させる、モーニングコールである」と述べています。

気候変動問題に取り組む世界的リーダーとして、中国政府は長い間積極的に、目標とコミットメントの実践とフォーカスを進めており、同国はすでに先進的な政策を備えていると同氏は語りました。

Bedford氏は、中国は長年にわたり、米国などの他の国々がどのような行動に出るかに関係なく、低炭素開発目標に向けて取り組むことに集中し続けていると付け加えました。

パネルの報告書が出される前、中国科学院が10月1日に、世界の気温が産業革命前より1.5℃上昇した場合、干ばつによって引き起こされる経済的損失は、中国に現在の予測の2倍以上である年間470億米ドルとなる可能性があると警告する研究を発表していました。

中国研究の書籍の筆頭著者であり、北京の中国気象局の国家気候センターの研究者であるJiang Tong氏は、「干ばつの損失は近年世界中で大幅に増加している」と述べました。

パリ協定は、世界的な平均気温上昇を産業革命前の2℃以下に抑え、温暖化を1.5℃に抑制し、関連するリスクや影響を軽減する取り組みを進めることを提案しています。

中国政府が注力した分野の一つは、製鉄所、アルミニウム、銅製錬所を含む金属・鉱業部門です。7月には、同国の大気質の改善を目的とした、3年間の「青空防衛」行動計画を発表しました。

世界的なエネルギー・コンサルタント会社ウッド・マッケンジーのシニア・コンサルタントであるLiu Sifang氏は、「政府において環境保護の重要性が高まっている」と述べています。

「各業界が汚染を減らすための要件を満たしていることを確認するために、様々な地域へと検査グループが派遣されました」と同氏は付け加えました。

さらにLiu氏は、中国の全ての主要都市に対して、方法は問わず、汚染を減らすための目標が割り当てられたと述べています。

中国と英国の有力科学者のグループは、10月17日にロンドンで画期的な報告書を発表し、気候変動がもたらす潜在的かつ最悪の場合のリスクを示し、政治家に軽減に向けての努力を強めるよう求めました。

この150ページの報告書は、気候変動の影響によるいくつかの「不穏なシナリオ」を初めて強調するものでした。

清華大学ブルッキングス・清華公共政策センター所長のYe Qi氏は、「世界中の人々に対して、気候変動が都市、経済、生活、社会にどのような影響を与えるかに注意を向け、環境への取り組みへの関心を高めるうえで、この報告書は特に重要です」と述べました。

科学者たちは、2015年の習主席の英国訪問中に中国政府と英国政府間で合意が調印された後、この報告書に取り組み始めました。

この報告書はカトヴィツェ会議で発表される予定となっていました。

目覚ましい成長

中国への潜在的な影響として、今世紀末までに熱波の数が3倍に増加し、氷河質量は約70%減少し、中国西部の一部地域における水資源の供給に影響を及ぼす可能性があると報告書は伝えています。

ザ・ネイチャー・コンサーヴァンシーのBedford氏は、中国の経済成長は目覚ましいが、これに伴って二酸化炭素排出量が増加していると指摘します。

「海水面上昇や台風マンクットのような異常気象により、多くの人々が居住する沿岸部が危険にさらされています。そして、都市の空気、水質、土壌汚染などの、より広範な環境問題に対する国民の懸念も存在します」とBedford氏は答えました。

台風マンクットは非常に強力な熱帯低気圧で、9月中旬にグアム、フィリピン、中国南部で広範囲にわたり被害を引き起こしました。

「気候変動は水源にも影響を及ぼし、中国の干ばつのリスクを高め、米などの作物に深刻な影響を与えることになる」

「世界最大の米生産国であり、消費者である、中国は、すでに食料安全保障に向けての取り組みを始めている」とBedford氏は述べました。

出典:ニューヨーク・タイムズ

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